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広島高等裁判所 昭和37年(ネ)149号 判決

控訴人 鈴緒こと 松浦鈴尾

右訴訟代理人弁護士 藤堂真二

被控訴人 有限会社日米モータース

右訴訟代理人弁護士 博田一二

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴会社の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴会社の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同趣旨の判決を求めた。

被控訴会社の主張は、被控訴会社は本件手形を訴外松川博から受取ったが、それは被控訴会社が松川の仲介により控訴人にオートバイを売渡し、その代金支払のためである。控訴人は本件手形の引受人名下の印影が控訴人の印章によるものであることを承認している。かような次第で控訴人夫松浦正則が松川に詫状の差入を求めたが松川はこれを拒絶した。と述べた外は原判決記載のとおりであるからこれを引用する。

控訴代理人は、被控訴会社主張の手形引受を否認する。本件手形の引受欄の控訴人の氏名は訴外松川博が控訴人に無断で記入したもので、従って控訴人の名の鈴尾を鈴緒と誤記し、控訴人名下の印影も控訴人の印章によるものではない。控訴人の夫正則は松川からヤマハオートバイを買ったことがあるが、その代金は昭和三六年六月二八日控訴人が正則の電話での指示により金八万円を、同年七月一〇日正則が自宅で残金二万円を各現金で支払って完済しているので、本件手形を引受けるような事情はない。松川は同年一二月二五日になって、本件手形につき、右不正行為を認め、控訴人に詫状を差入れた。と述べた。

立証として被控訴代理人は、甲第一、二号証を提出し、当審証人鼻戸登(第一、二回)上田篤夫、松川博の各証言を援用し、乙第一、四、五及び第一三号証の各成立は認めるが、その他の乙号各証の成立は知らない、と述べ、控訴代理人は、乙第一ないし第一三号証を提出し当審証人松浦正則(第一、二回)藤原すみ子、高本寿彦、松川博、高橋栄太郎の各証言及び当審での控訴人本人尋問の結果(第一、二回)を援用し、甲第一号証の引受部分の成立を否認し、同号証の他の部分及び第二号証の成立は知らない、と述べた。

理由

一、成立に争ない乙第四号証に当審証人鼻戸登(第一、二回)上田篤夫、松川博の各証言(ただし鼻戸、松川分は各一部)及び右鼻戸証言によって成立を認められる甲第二号証と弁論の全趣旨を総合すると、訴外松川博は控訴人に衣料品の卸売をしていたところ、控訴人の夫松浦正則がオートバイを求めていたので、昭和三六年六月ごろ代金一〇万円でこれを売渡し、その代金は二回に支払を受けたが、同車が油が漏れるというので同年九月中旬、代りの新車ヤマハオートバイ一台を代金一三万五〇〇〇円で売渡し、旧車の代金返還は松川の控訴人に対する衣類代金と差引勘定し、新車の代金支払の方法として松川が控訴人の面前で手形金額、支払期日、引受日及び引受人の住所氏名を被控訴会社主張のように記載した上、引受人の名下に控訴人の押印を得た本件為替手形一通を控訴人から受取り、これを仕入先である鼻戸登に交付したこと、鼻戸は手形引受に不安をいだき、控訴人方を訪ねて控訴人に確めたところ、控訴人は控訴人が引受けたものに相違ない旨答えたこと、鼻戸は右オートバイの仕入先である被控訴会社に右手形を白地欄はそのままで譲渡し、被控訴会社が同月二六日以前に受取人欄に被控訴会社名を、支払人欄に控訴人名を、また支払場所、振出日欄に各被控訴会社主張のように記入補充して本件手形を完成し、(これが甲第一号証(表面部分)である。)現在その所持人であることが認められる。

二、控訴人は、右手形は松川が偽造したものである、と主張し、成立に争ない乙第一、第一三号証と前記甲第一号証とを比較するとき、控訴人の名前が真実は鈴尾であるのに手形面では鈴緒となっており、引受人名下の印が控訴人の実印でないことが認められ、また松川が他に控訴人引受の為替手形を偽造したことがあることは前記松川証言によって認められるけれども、これらの事情を勘案しても前記認定を左右することはできない。

前掲鼻戸、松川の各証言及び当審証人松浦正則の証言(第一、二回)と当審での控訴人本人尋問の結果(第一、二回)中前記認定に反する部分は信用しがたく、また当審証人藤原すみ子の証言は前記松川博の証言に対比するとき、たやすく措信できず、他に以上の認定をくつがえすに足る証拠はない。

三、以上の認定事実によるときは、本件手形の白地補充権は手形に伴って移転し、手形を取得したものが同時に補充権を取得したものと解すべきもので、従って被控訴会社は適法にその補充をして本件手形を完成したことになり、前記証人鼻戸登の証言とこれにより真正に成立したと認められる甲第一号証の符箋及び裏書部分により、本件手形が所持人により満期の翌日に支払場所で支払のため呈示されたことが認められる。

四、そうすると控訴人は本件手形の引受人として所持人の被控訴会社に右手形金及びこれに対する満期の翌日から完済まで手形法所定の年六分の利息支払義務があるこというまでもない。

〈以下省略〉。

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